文化系ブログ

アート、小説、音楽、映画、文化に関すること全般を雑談的に。

E・T・A・ホフマン(上田真而子訳)『くるみわりとネズミの王さま』(岩波少年文庫、2000)を読んだ。

E・T・A・ホフマン(上田真而子訳)『くるみわりとネズミの王さま』(岩波少年文庫、2000)を読んだ。 これは先日も書いたけれども、スタジオジブリの広報誌『熱風』7月号で取り上げられていたからで、それは長編映画から引退した宮崎駿の引退後初の仕事、「…

『バルテュス展』を観に行って、思ったこと。

6月1日日曜日に、東京上野の東京都立美術館へ『バルテュス展』を見に行った。 バルテュスは以前から好きな画家ではあったのだが、本格的に関心を持ったのは2011年、震災の年のことだった。震災以前から少し画集などを読み始めていたのだけど、震災でささくれ…

村上春樹『女のいない男たち』を読んでいる。

村上春樹『女のいない男たち』(文藝春秋、2014)を読んでいる。 読んでいる、というのはまだ読了してないからで、前書きと最初の『ドライブ・マイ・カー』、それに『イエスタデイ』というビートルズの曲から題名を引用した二作を読んだところだ。 作品とし…

さいとうちほさんの『とりかえ・ばや』第4巻を読んだ。「色好み」が物語を展開させる原動力であるのが面白いと思った。

さいとうちほさんの『とりかえ・ばや』第4巻を読んだ。 平安時代の古典『とりかへばや物語』に題材を取ったさいとうちほさんの作品、『とりかえ・ばや』の第4巻が出た。 主人公は女性なのを隠して宮中に出仕している「沙羅双樹の中納言」と男性なのを隠し…

ビアトリクス・ポターの伝記映画、『ミス・ポター』を観た。ピーター・ラビットの作者であり、ナショナルトラスト運動の祖でもある女性の生き方。

ビアトリクス・ポターの伝記映画『ミス・ポター』を観た。 この作品は2006年に公開された映画で、「ピーターラビット」シリーズの著者であり、湖水地方のナショナルトラスト運動の祖としても有名なビアトリクス・ポターを演じた主演のレニー・ゼルウィガーの…

トランストロンメルの詩集『悲しみのゴンドラ』を読んだ。(2)朗読したくなる詩集だった。

トランストロンメルの詩は朗読したくなる詩だ。 つよい、ということはワンフレーズワンフレーズの意味が取りやすい、ということでもある。 詩と言っても私はやはり今までは抒情詩的な方面に偏っていたから、言葉の意味というより何かの発露としての表現とい…

トランストロンメルの詩集『悲しみのゴンドラ』を読んだ。(1):2011年のノーベル文学賞受賞作家は「強い詩」を書く詩人だった。

トマス・トランストロンメルの詩集『悲しみのゴンドラ』増補版(思潮社、2011)を読み始めた。 トランストロンメルと言ってもぴんとこないと思うが、2011年のノーベル文学賞を受賞したスウェーデンの詩人だ。 芥川賞とノーベル文学賞はなるべく読むことにし…

ブログのタイトルを「文化系ブログ」に改題します

ドメニキーノ『クマエの巫女』 このブログの表題を、『文化系ブログ』と改題することにした。 「Eyes and Wind」というのは、私がずっと以前、今世紀初頭ごろに「まなざしとかぜ」という写真サイトをやってて、その写真に文章をつけて何かポエジーを発生させ…

浦久俊彦『フランツ・リストはなぜ女たちを失神させたのか』は19世紀音楽史を知るのに大変良い一冊だった。

浦久俊彦『フランツ・リストはなぜ女たちを失神させたのか』(新潮新書、2013)読了。題名から感じる雰囲気とは全く違い、19世紀中盤の音楽史・文化史を概観し、またリストという巨大な天才の生涯を概観することができる素晴らしい本だった。 リストはイメー…

松田奈緒子『歌』は、中原中也や芥川龍之介を題材に、独特の絵で作品世界に切り込んだ、読み応えのある一冊だった。

松田奈緒子『歌』(ホーム社、2013)を読んだ。 昨日は銀座に出かけて教文館書店で本やマンガを見ていた。2冊買ったのだが、1冊は浦久俊彦『フランツ・リストはなぜ女たちを失神させたのか』で、もう1冊はこの本。ぱらぱらと立ち読みした感じが面白く、久…

映画『いわさきちひろー27歳の旅立ち』を観た。(5)傑出した才能と早すぎる死

(その4)からの続きです。 私が久しぶりに映画館に足を運ぶ気になったのも、そうした創作者としての彼女の姿に出会いたかったのだなと思う。そしてそれは、十分にかなえられた。 特に前半のデビューまでの苦闘は、とても見ごたえがあった。後半は少し間延…

『いわさきちひろー27歳の旅立ち』を観た。(4)いわさきちひろの絵の「強さ」

(その3)からの続きです。 内面の激しさが自らの身体まで蝕みながら、そうしてまで描き続けた彼女の絵は、甘いだけのものであるはずがない。パンフレットでスタジオジブリの高畑勲が描いていることだが、「描かれた子供たちはほとんど笑っていない」。そう…

『いわさきちひろー27歳の旅立ち』を観た。(3)すべての価値観が崩壊した敗戦の翌日。ちひろはスケッチブックを開いた。

(その2)からの続きです。 ちひろの一生は戦いの連続だった。そしてそれは、特に若いころは、必ずしも褒められた戦い方でもなく、そうであるからこそちひろは傷つきながら戦い、描き続け、惜しまれながら早く亡くなってしまったのだろう。 女学生時代から…

『いわさきちひろー27歳の旅立ち』を観た。(2)「本当は怖い」いわさきちひろ

(その1)からの続きです。 映画『いわさきちひろ―27歳の旅立ち』を見て、自分の中でいわさきちひろの絵の見方が変わったことが如実に感じられる。 ただかわいいだけの子どもの絵に、なぜ動かされるのだろうかと、それが不思議でならなかったのだが、はっき…

『いわさきちひろー27歳の旅立ち』を観た。(1)わたしにとってのいわさきちひろ

2012年8月のことになるが、スタジオジブリの広報誌『熱風』で、いわさきちひろの評伝映画、『いわさきちひろ―27歳の旅立ち―』(海南友子監督作品)が特集されていた。それを見て、有楽町に見に行くことにした。 私は、いわさきちひろについてそんなに何かを…

篠原ウミハル『図書館の主』第66話「ひねくれ者」はルナールの『にんじん』を取り上げていた。

2月28日に出た『週刊漫画Times』に、『図書館の主』第66話(後半)が掲載された。 このマンガは、とある私営の児童図書館を舞台に、子どもたちや司書たちの人間模様を描きながら、児童書と関連付けて、児童書が子どもたちだけでなく、多くの人々の人生の…

104歳で亡くなったまど・みちおさんは、本当は凄い詩人だった。

詩人のまど・みちおさんがなくなった。104歳。天寿を全うした、と言っていいのだろう。 生まれたのは1909年。詩人として認められたのは昭和9年、雑誌『コドモノクニ』に応募した作品が北原白秋によって特選に選ばれたことだったという。 誰でも知っている代…

『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』(その8)村上春樹を読む人は多数派なのか少数派なのか

(その7)からの続きです。 描写においてもやはりすごいなと思うところはいくつかあって、若い女性の輝くばかりの魅力が、あっという間に失われていくそのあたりの描写とか、背中に何かスイッチのようなものがあるというような感覚とか、なんかそういうもの…

『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』(その7)未決の引き出しとの向き合いかた

色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年 作者: 村上春樹 出版社/メーカー: 文藝春秋 発売日: 2013/04/12 メディア: ハードカバー クリック: 3,074回 この商品を含むブログ (319件) を見る (その7)からの続きです。 話は、私自身のことになる。『多崎つ…

『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』(その6)生の色彩を取り戻すことは、死すべき運命との引き換えでしか得られない

(その5)からの続きです。 しかし、人は誰しもできれば晴れ晴れと生きていきたいから、解決できる範囲では解決したいと思うし、しかしその範囲でなんとかしようとすることが、その範囲を超えて自分の存在を脅かしてしまうこともよくあることだ。 沙羅の求…

『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』(その6)生の色彩を取り戻すことは、死すべき運命との引き換えでしか得られない

(その5)からの続きです。 しかし、人は誰しもできれば晴れ晴れと生きていきたいから、解決できる範囲では解決したいと思うし、しかしその範囲でなんとかしようとすることが、その範囲を超えて自分の存在を脅かしてしまうこともよくあることだ。 沙羅の求…

『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』(その5)「ちゃぶ台をひっくり返す」ことはいいことなのかどうか

(その4)からの続きです。 灰田の語った緑川の話が、このストーリーの一番神話的な部分だろう。神話的というのは、『ねじまき鳥』で言えばノモンハン、『1Q84』で言えば猫の町、『カフカ』で言えばナカタさんということになるのだが、このことについては後…

『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』(その5)「ちゃぶ台をひっくり返す」ことはいいことなのかどうか

(その4)からの続きです。 灰田の語った緑川の話が、このストーリーの一番神話的な部分だろう。神話的というのは、『ねじまき鳥』で言えばノモンハン、『1Q84』で言えば猫の町、『カフカ』で言えばナカタさんということになるのだが、このことについては後…

『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』(その4)「ないこと」を得ることの難しさ

(その3)からの続きです。 いや、シロ以外にもう一人自己実現したとは言えないのが灰田という存在だろう。彼はそうは断定されていないけれども明らかに同性愛者で、つくるにそれを求めて、ただ一度だけその思いを、おそらくは彼としては決然として、しかし…

村上春樹『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』を読んだ。(その2)「提示されている問題を自分の問題としてとらえてしまう」度の高さ。

(その1)からの続きです。 とにかく上手いと思うのは、一つ一つの作中人物が抱えている問題が明らかになるときの、「自分の問題として考えてしまう」度の高さ、「そういうことってあるんだよなあ」と思ってしまう感じが、今まで読んだどの小説よりも強い、…

村上春樹『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』を読んだ。(その1)「状況への過適応」と「楽園追放」

私は、村上春樹の長編小説の新刊が出るときは、必ず買うようにしている。とは言っても、それは『1Q84』以来のことなので、彼の長編小説の刊行史からすれば、ごく最近のことだ。『多崎つくる』も発売日か、それに遠くない日に買って、すぐに読んだ。以下はそ…

佐渡裕『僕が大人になったら』

佐渡裕『僕が大人になったら』(PHP文庫、2011)を買った。この本は1990年代に『CDジャーナル』に毎月連載したものだと言うが、彼の活動がリアルタイムに記されていて臨場感があり、大変面白い。今はまだ170ページ(解説まで含めて全305ページ)なのだが、最…

羽生結弦選手の金メダルへの道

昨日テレビを見ていたら、ソチ・オリンピックの男子フィギュアで金メダルを獲得した羽生結弦選手のドキュメンタリをやっていた。 それを見ていていろいろ思うことがあったので、このブログにも書いておきたい。 昨日初めて知ったのは、『4回転サルコー』と…

【「芥川賞受賞者なし」は制度疲労か作家の力不足か】

第145回、つまり2011年上期の芥川賞は「受賞者なし」だった。 それについての山田詠美のコメントを読む。いろいろと回りくどいことも行っているが、結局は円城塔をどう評価するかと言う問題で、彼に芥川賞を与えると言うことに抵抗がある人が選考委員の過半…

赤染晶子『乙女の密告』は、ここのところなかった「何かを考えるための物語」だった。

2010年のことだが、赤染晶子『乙女の密告』を読んだ。 私は基本的にその年の芥川賞作品は読むことにしているので、この文章も2010年の8月にかいたものだ。 この小説は、「乙女」の世界と「アンネの日記」の世界が交錯して行き、アンネ・フランクのある種の問…