文化系ブログ

アート、小説、音楽、映画、文化に関すること全般を雑談的に。

2014-02-01から1ヶ月間の記事一覧

『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』(その8)村上春樹を読む人は多数派なのか少数派なのか

(その7)からの続きです。 描写においてもやはりすごいなと思うところはいくつかあって、若い女性の輝くばかりの魅力が、あっという間に失われていくそのあたりの描写とか、背中に何かスイッチのようなものがあるというような感覚とか、なんかそういうもの…

『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』(その7)未決の引き出しとの向き合いかた

色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年 作者: 村上春樹 出版社/メーカー: 文藝春秋 発売日: 2013/04/12 メディア: ハードカバー クリック: 3,074回 この商品を含むブログ (319件) を見る (その7)からの続きです。 話は、私自身のことになる。『多崎つ…

『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』(その6)生の色彩を取り戻すことは、死すべき運命との引き換えでしか得られない

(その5)からの続きです。 しかし、人は誰しもできれば晴れ晴れと生きていきたいから、解決できる範囲では解決したいと思うし、しかしその範囲でなんとかしようとすることが、その範囲を超えて自分の存在を脅かしてしまうこともよくあることだ。 沙羅の求…

『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』(その6)生の色彩を取り戻すことは、死すべき運命との引き換えでしか得られない

(その5)からの続きです。 しかし、人は誰しもできれば晴れ晴れと生きていきたいから、解決できる範囲では解決したいと思うし、しかしその範囲でなんとかしようとすることが、その範囲を超えて自分の存在を脅かしてしまうこともよくあることだ。 沙羅の求…

『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』(その5)「ちゃぶ台をひっくり返す」ことはいいことなのかどうか

(その4)からの続きです。 灰田の語った緑川の話が、このストーリーの一番神話的な部分だろう。神話的というのは、『ねじまき鳥』で言えばノモンハン、『1Q84』で言えば猫の町、『カフカ』で言えばナカタさんということになるのだが、このことについては後…

『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』(その5)「ちゃぶ台をひっくり返す」ことはいいことなのかどうか

(その4)からの続きです。 灰田の語った緑川の話が、このストーリーの一番神話的な部分だろう。神話的というのは、『ねじまき鳥』で言えばノモンハン、『1Q84』で言えば猫の町、『カフカ』で言えばナカタさんということになるのだが、このことについては後…

『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』(その4)「ないこと」を得ることの難しさ

(その3)からの続きです。 いや、シロ以外にもう一人自己実現したとは言えないのが灰田という存在だろう。彼はそうは断定されていないけれども明らかに同性愛者で、つくるにそれを求めて、ただ一度だけその思いを、おそらくは彼としては決然として、しかし…

村上春樹『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』を読んだ。(その2)「提示されている問題を自分の問題としてとらえてしまう」度の高さ。

(その1)からの続きです。 とにかく上手いと思うのは、一つ一つの作中人物が抱えている問題が明らかになるときの、「自分の問題として考えてしまう」度の高さ、「そういうことってあるんだよなあ」と思ってしまう感じが、今まで読んだどの小説よりも強い、…

村上春樹『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』を読んだ。(その1)「状況への過適応」と「楽園追放」

私は、村上春樹の長編小説の新刊が出るときは、必ず買うようにしている。とは言っても、それは『1Q84』以来のことなので、彼の長編小説の刊行史からすれば、ごく最近のことだ。『多崎つくる』も発売日か、それに遠くない日に買って、すぐに読んだ。以下はそ…

佐渡裕『僕が大人になったら』

佐渡裕『僕が大人になったら』(PHP文庫、2011)を買った。この本は1990年代に『CDジャーナル』に毎月連載したものだと言うが、彼の活動がリアルタイムに記されていて臨場感があり、大変面白い。今はまだ170ページ(解説まで含めて全305ページ)なのだが、最…

羽生結弦選手の金メダルへの道

昨日テレビを見ていたら、ソチ・オリンピックの男子フィギュアで金メダルを獲得した羽生結弦選手のドキュメンタリをやっていた。 それを見ていていろいろ思うことがあったので、このブログにも書いておきたい。 昨日初めて知ったのは、『4回転サルコー』と…

【「芥川賞受賞者なし」は制度疲労か作家の力不足か】

第145回、つまり2011年上期の芥川賞は「受賞者なし」だった。 それについての山田詠美のコメントを読む。いろいろと回りくどいことも行っているが、結局は円城塔をどう評価するかと言う問題で、彼に芥川賞を与えると言うことに抵抗がある人が選考委員の過半…

赤染晶子『乙女の密告』は、ここのところなかった「何かを考えるための物語」だった。

2010年のことだが、赤染晶子『乙女の密告』を読んだ。 私は基本的にその年の芥川賞作品は読むことにしているので、この文章も2010年の8月にかいたものだ。 この小説は、「乙女」の世界と「アンネの日記」の世界が交錯して行き、アンネ・フランクのある種の問…

堤清二氏とセゾン文化の文化的功績は、文化のインフラを作り、カルチャーへの階段を架けたこと

昨年の11月、元セゾングループ総帥、堤清二氏が86歳で亡くなった。 堤清二という人と、その「文化的功績」に関して、少し書いてみたい。 彼は80年代、それまでになかった形で、文化のインフラストラクチャーを作った、それが彼の功績だと思う。それは「…

佐村河内氏のゴーストライター問題で「永仁の壷」事件を想起して思ったこと

【佐村河内氏のゴーストライター問題と「永仁の壷」事件】 佐村河内守氏をめぐるゴーストライター問題、私はこの分野の話に疎いので、何が問題なのかがずっと腑に落ちていなくて、今でも完全に理解したとも言えないのだが、要は作曲家の新垣隆氏が佐村河内氏…

表現の永遠の課題:作り手としてやりたいように表現するのか、誰にでも分かりやすく表現するのか

スタジオジブリの広報誌『熱風』が届いた。今回いろいろ考えさせられたのが『かぐや姫の物語』を見た「爆笑問題」の太田光と、高畑勲監督との対談。『かぐや姫の物語』は線で囲って色で塗り籠める「普通の」アニメに対し、ラフな線が動き、すべてを塗り尽く…

磯崎憲一郎「終の住処」を読んだ。(その1):「われわれの世代の小説」が現れたと感じた。

磯崎憲一郎「終の住処」を読んだ。 面白かった。冒頭を読み始めたときは「この小説最後まで読めるのかな」と心配しながら読んでいたのだが、最初の新婚一日目のエピソードまで読み終わったところで芥川賞の選評を読み、また6ページにわたる作者インタビュー…

土方巽の舞踏『夏の嵐』をYouTubeで見た。目の覚めるような舞台だった。

Summer Storm - Tatsumi Hijikata (1973) - YouTube 土方巽(ひじかた・たつみ)の舞踏をYouTubeで見ていた。目の覚めるような舞台だった。 今まで舞踏系のものは生でいくつか見ているのだけど、録画であるのに今まで見た中で一番よかったように思う。土方と…